研究概要 |
ニワトリやラットにトリプシン阻害剤を経口投与すると膵臓の肥大と膵酵素分泌の亢進が起ることが知られ、この機序には十二指腸内トリプシンによる膵外分泌のnegative feedback機構が関与すると考えられている。しかし、このトリプシン阻害剤の膵外分泌亢進作用が消化管ホルモンを介しているのかどうか、また動物種差があるかどうかについてはなお十分な検討がなされていない。本研究ではラット,イヌおよびヒトを用いてトリプシン阻害剤の膵外分泌,血中CCK,セクレチンに及ぼす影響について検討を行い次のような結果を得た。トリプシン阻害剤の中でも特に合成トリプシン阻害剤である FOY-305(Comostate)を上部小腸内に投与するとラット,イヌ,ヒトのいずれにおいても膵外分泌、特に重炭酸塩排出量と血中セクレチン濃度に有意の用量依存性の増加が認められた。しかし、膵酵素排出量と血中CCK濃度には有意の用量依存性の増加は認められなかった。従って、このトリプシン阻害剤による膵外分泌の亢進は主として内因性セクレチンの分泌を介することが示唆され、このセクレチンの関与には動物種差が認められなかった。 これまで膵外分泌のfeedback機構についてはラットではCCKの分泌亢進が関与していることが報告されており、われわれの結果と異っている。CCKにはheterogeneityの問題がありradioimmunoassayによって測定されるCCK濃度は使用した抗血清の特異性によって異る。われわれの用いたassay系では【CCK_(33,39)】に特異性が高く、【CCK_8】については低いため、【CCK_8】が優位に分泌されているとすれば血中CCK濃度を過少評価している可能性もあり【CCK_8】に特異性の高い抗血性を用いて現在検討中である。これまでトリプシン阻害剤が内因性セクレチンの分泌を促進するという報告はなく、抗セクレチン血清投与によるimmuno-neutralizationを行って、この結論のもう一つの確証を得たい。
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