研究概要 |
近年、脊髄小脳変性症、パーキンソン症候群の一部に線維芽細胞、末梢血白血球におけるグルタミン酸脱水素酵素(以下GDH)低下例が見いだされている。この酵素異常の機作を明らかにすることはこれら神経変性疾患の病因解明に一つの糸口を与えると考えられる。我々は当科外来受診中の脊髄小脳変性症パーキンソン症候群の白血球GDH活性を測定し、4例の部分欠損例を見いだした。これらの症例ではミトコンドリア局在のGDH活性(heat labile component)のみ低下しており、またradioimmunoassay法により測定したところ、同時にGDH蛋白低下が認められた。比活性値(酵素活性値/蛋白量)は健常者、GDH活性正常症患群、GDH活性低下群でほぼ一定であった。これらの事実はGDH活性低下は酵素の質的異常よりもむしろ酵素蛋白産生量の異常に因ることを示唆するものである。以上の結果をふまえ以下の方針で研究を進めている。1)患者群では血中アミノ酸値の異常を認めた。そこで患者の皮膚線維芽細胞を培養し、本酵素低下により考えられるエネルギー代謝、アミノ酸代謝の異常を分析している。さらに各種アミノ酸の細胞毒性についても検討し、中枢神経変性に至る本症の発症機構の解明をめざしている。2)GDH蛋白は遊離ポリゾームで前駆体として合成され、ミトコンドリアマトリックスに局在するpepticlaseによりextrarpeptideが切断され成熟GDHとなる。GDH部分欠損機序としてこのミトコンドリアへの転送・プロセッシングの障害の有無を検討する。まず末梢血リンパ球を分離培養、【^(35)S】メチオニンでパルス標識する。抗GDH抗体とリンパ球抽出液を反応させ、沈澱物をSDS-PAGEにて展開、auto-radiographyをおこなう。正常リンパ球GDHサブユニットは分子量約54,000の前駆体として合成され、数分後には分子量約50,000の成熟型に移行することを確認しており、現在GDH欠損例について検討している。
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