研究概要 |
随意運動の中枢制御において重要な役割を果すと考えられる大脳基底核および小脳について、その障害が随意運動に先行して大脳皮質に生ずる電位変化(運動前陰性緩電位)にどのような影響を及ぼすかを検討した。基底核障害の代表としてパーキンソン病の患者10名(35〜77才)、および小脳障害の患者4名(15〜54才)を対象とし、随意的中指伸展運動に先行する脳電位を逆行性加算平均法で記録し、正常対照者20名(若年者23〜28才10名および高令者58〜81才10名)の所見と比較した。とくに1985年に研究代表者らが開発した新しい方法を応用して、各運動の筋放電開始時点を精確に求めることにより、トリッガー時点が一定となるようにした。その結果次の 点が明らかになった。 1.パーキンソン病では、運動前陰性緩電位の最後の(最も筋放電に近接して出現する)成分NS'の頭皮上分布が若年正常者と異なり、片手の運動にも拘らず中心部正中線で最大となった。しかしこの現象は正常高令者でも認められ、加令に基づくものと考えられた。また、パーキンソン病の運動緩慢(無動)および筋固縮の程度とNS'の異常の間にも相関はみられなかった。さらに、運動前陰性緩電位の早期成分であるBP(狭義の準備電位)についても正常者と差違がなかった。中指伸展を反復するような単純な随意筋収縮に先行する脳電位には、無動は反映されないことが判明した。 2.小脳失調症では、小脳皮質障害を呈する患者では運動前陰性緩電位の3成分(BP,IS,NS')共に異常を認めなかったが、歯状核に主病変を有すると考えられるラムゼーハント症侯群2名においては、いずれの成分も見出できなかった。小脳遠心系が一次および二次運動皮質の随意運動準備状態に強い影響を及ぼしていることが証明された。今後は、複雑な随意運動に先行する脳電位の研究が必要と思われる。
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