サイコシン(ガラクトシルスフィンゴシン)は、UDP-ガラクトースとスフィンゴシンより生成され、ガラクトシルセラミダーゼにより分解される。この分解酵素欠損症(Krabbe病)においては、脳中に著明なサイコシンの蓄積が起り、これがKrabbe病の病態発生に重大な関与をしていることが推測されている。それは、サイコシンが「細胞毒 であることが以前より知られているためである。しかし、その細胞毒性発現機序は今まで明らかにされていない。そこで本研究では、サイコシンの細胞毒性発現機序を解明することを目的とした。ラット肝臓よりミトコンドリアを分離し、それに対するサイコシンの影響をみた。LehningerとSmithにほぼ従って、β-ヒドロキシブチレートを基質として、無機リンとりこみとアセトアセテート生成へのサイコシンの影響をみると、サイコシンはこれらのいずれをも抑制することが認められた。又、この時、反応液中でサイコシン存在下では還元型シトクロームCが増加することが認められた。これは、サイコシンが電子伝達系において、複合体【IV】の段階で電子の伝達を阻害していることを示唆するものと考えられた。そこで、還元型シトクロームCを基質としてシトクロームCオキシダーゼ(COX)を測定すると、サイコシンがCOXを強く抑制(5μM以下で50%抑制)することが見出された。更に、この抑制は完全に可逆性であった。すなわち、100μMサイコシンで完全なCOX抑制がかかった状態に終濃度1%となるようヒト血清アルブミンを加えたところ、完全な酵素活性の出現がみられた。このことはサイコシンによるCOX抑制が非特異的な蛋白質変性作用等によるものではないことを示している。 今後、サイコシンによるCOX抑制機構、アルブミンによる抑制解除機構の詳細について検討する予定である。
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