筋小胞体(SR)が骨格筋の興奮収縮連関において中心的役割を担うことは既に確立されている。筋ジストロフィー、悪性高熱、Brody病などの疾病で、SRの機能異常が指摘されてきた。SRの主要な生理的機能の1つはCa摂取であり。Ca-ATPaseが関与している。本研究ではCa-ATPase蛋白に焦点を絞り、正常および病的状態におけるCa-ATPase蛋白の分布を解析した。また神経組織などの非筋組織におけるCa-ATPase蛋白については若干の検討を加えた。 ヒト骨格筋よりSR・CaーATPase蛋白を精製し、これを抗原としてポリクローン抗体を作製した。この抗体を使用して、各種の筋疾患につきimmunoblotおよび免疫組織化学を行った。(1)Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)やndxマウスの筋肉ではSR・Ca-ATPase免疫染色の低下が観察された。ただDMDのopaque fiberの一部は濃染された。(2)周期性四肢麻痺にみられたtubular aggregatesは免疫染色され、SR起源が推定された。(3)筋緊張性ジストロフィ、悪性高熱、多発筋炎では正常の免疫染色を呈した。(4)中枢神経や末梢神経には交叉反応を呈する100KDの蛋白は存在しない。36KDの未同定の蛋白が淡染された。ヒト血小板および培養血管内皮細胞には交叉反応を呈する蛋白はみとめられなかった。 今回の結果は、DMDにおいてSR・Ca-ATPase蛋白の量的減少を示唆しており、従来の報告を支持している。本症では細胞骨格蛋白、ジストロフィンの欠損が最近発見され、これとの関連が問題となろう。ジストロフィンの欠損のための筋細胞の分化・成熟が障害され、その結果の一部として、Ca-ATPase蛋白の低下を生じた可能性を考慮している。
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