左室機能が急激に低下するとき、一過性には右心拍出量が左心拍出量を凌賀し、体循環から肺循環への血液シフトが生じて肺静脈圧を増し、左室前負荷を増して新たな左右心拍出量の平衡状態に至ると考えられる。一方肺血管はdistensible tubeの特性を有し、血管内左上昇による受動的血管拡張により抵抗を減ずるとされ、この特性は急性左室不全による肺高血圧時に右室の駆出抵抗を減弱する作用を有すると考えられるが、肺循環の左-容積-抵抗関係につき詳細に検討した報告は無い。そこで、雑種成犬の自家血潅流摘出肺を用いてその関係を検討した。雑種成犬7頭を用い、左肺下葉を摘出し、ヘパリン加自家血で潅流し、ストレインゲージに懸垂して重量を連続的に測定した。リザーバーの高さを調節することにより肺動脈圧(PAP)、肺静脈圧(PVP)を可変とし、ZoneIII及び肺浮腫の生じない範囲内、すなわちPAP5〜30mmHg、PVP5〜15mmHgの範囲で5mmHgずつ変化させ、肺血流量と肺重量を測定した。さらに潅流血に、硝酸イリリルビド5mgを加え同一のプロトコールを繰り返した。その結果肺血管抵抗はPVP上昇に伴い低下したが、PAP上昇に対する反応はPVPのレベルで異なり、PVP=5では減少、PVP=10では不変、PVP=15mmHgでは逆に増加した。肺重量から推定される肺血管容積の変化は、静脈で動脈のおよそ倍であり、静脈のコンプライアンスが高いことが示され、動静脈とも対側の圧が高いほどコンプライアンスの低下することが示された。硝酸イリリルビドは等圧で投与前に比し、血流量と肺重量を増し、肺血管抵抗を減じたが、肺血管抵抗-肺重量関係の回帰直線は投与前後でほぼ等しく、肺血管容積が一義的に肺血管移行に寄与することが示唆された。以上より肺血管抵抗は、血管内圧とコンプライアンスにより決定される血管径の変化により受動的に変化し、さらに動静脈間の圧の相互作用がそれを修飾するものと考えられた。
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