研究概要 |
バゾプレッシン(VP)は、その腎,血管作用を介して、血圧維持に重要な役割を演じている。一方、中枢において、VPは、視床下部VP産生部位より、広汎なVP性神経の投射を行い、延髄においては、主として、孤束核,迷走神経核等の心血管中枢に濃い神経終末が認められている。かかる解剖学的関係から、我々は、中枢VP性神経が、心血管調節中枢において、神経伝達性あるいは、神経修飾性に作用している可能性を想定した。本研究においては、先天的にVPの欠損した尿崩症ラット(DI)と正常ラット(LE)におけるVPの中枢作用の比較により、VPの中枢心血管作用を検討した。また正常ラットを用い、脳定位固定及び微量注入法を用い、孤束核におけるVPの作用及び、その局在による作用差を検討した。〈結果〉無麻酔無拘束LEに、21時間に渡って側脳室内へVP(2pg/kg/min)を持続投与すると、持続的な昇圧と頻脈を示した。一方、DIにおいては、同様な処置で、初期の昇圧の後に長い降圧相を、また初期の頻脈の後に長い徐脈を認めた。一方、VPの腎受容体の特異的遮断剤,d【(CH_2)_5】 Tyr(Me)AVPをLEに投与しても中枢性心血管反応が生じなかった事から、VPの中枢心血管作用,特にその降圧作用は、古典的な、腎,血管受容体を介して作用するものではないと考えられ、特異な中枢受容体の存在を推定し得た。同時に麻酔ラットにおいて、孤束核への微量VP注入法により、VPが昇圧及び頻脈を起こす部位と、降圧,徐脈を引き起こす部位を同定した。特に後者は、孤束核吻側,外側部において認められた。以上の結果より、中枢においてVPは心血管刺激と同時に、ある条件下に心血管抑制を引き起こす事が明らかとなり、従来報告されているVPの受容体反射亢進作用が中枢神経系内において生じる事を間接的に証明した。
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