研究概要 |
心房刺戟時に生じる多尿には迷走神経反射が関与するとの報告があるが, 近年この利尿現象には心房性Na利尿ペプチド(ANP)の役割が重要であると考えられるようになった. 本研究ではANP分泌機序の一端を明らかにするために, 心房圧上昇時の血漿ANP濃度の変化ならびにそれに及ぼす迷走神経切断(迷切)の影響を検討した. 8匹の麻酔下のイヌの左心耳より挿入したバルーンカテーテルにより, 左房圧をおよそ+2(A期), +4(B期)および+6mmHg(C期)上昇させ, それぞれ15分間, 維持した. 別の7匹のイヌの右心耳にペーシング用電極を装着し, 120, 160および200拍/分の心房ペーシングをそれぞれ15分間続けた. 各時間で尿中Na排泄量(UNaV)および血漿ANP濃度を測定した. 次に両側頚部迷切後に同様の操作を繰り返した. その結果, バルーンによる左房圧の上昇とともに血漿ANP濃度はB期(+16%), C期(+35%)に有意に上昇した. 心房ペーシングにても心拍数が増加するにつれ, 左房圧が上昇し(+2.4mmHg), UNaVも有意に増加した(+44%). 血漿ANP濃度は160拍/分(+78%)および200拍/分(+130%)で有意に増加した. いずれの刺戟による血漿ANPの増加も迷切によって影響されなかった. 以上より両実験共に左房圧の上昇と平行してANP濃度が増加し, 左房圧の上昇はANP分泌を刺戟すると考えられる. しかし心房ペーシングによるANP濃度の増加の方がバルーンによるそれよりも大きかったのは心房収縮頻度自体がANP分泌に促進的に作用した可能性がある. 血漿ANP濃度の増加が高度の時には, UNaVも増加しており, ANPが所謂tachycardia polyuriaに関連してると考えられる. 迷切により血漿ANP濃度の変化は影響されなかった. このことはANP分泌は迷走神経反射を介さず心房レベルで調節されていると推測される. 次年度は主として浮腫性疾患におけるANP分泌動態を臨床的に検討する予定である.
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