研究概要 |
急性心筋梗塞における心筋壊死進展の病態には, 欠陥攣縮・血栓形成, 並びに続発する微小循環障害に基づく虚血性心筋障害, 及び虚血心筋内への炎症細胞の浸潤が重要な役割りを果たす. 従来炎症反応は, 心筋組織の損傷治癒過程の一環としてのみ把えられてきたが, 最近白血球細胞の活性化が心筋壊死進展の病態進行を増幅し, ひいては心筋梗塞巣の拡大をもたらす可能性が指摘されつつある. 本研究は, 微小循環障害を惹起するとともに炎症反応の重要なメディエーターとなるアラキドン酸リポキシゲナーゼ代謝物質(ロイコトリエン, ヒドロキシエイコサテトラエン酸)に注目し, 1.心筋虚血時の白血球並びに心筋リポキシゲナーゼ代謝活性の測定, 2.リポキシゲナーゼ代謝物質と白血球機能・心筋壊死進展との相関解析を行い, 3.抗炎症剤である選択的リポキシゲナーゼ阻害剤による心筋梗塞の壊死進展抑制効果について, 実験的心筋梗塞(左冠動脈閉塞1.5時間, 再潅流5時間)モデルを用いて検討した. その結果, 1.虚血部心筋では非虚血部心筋に比しリポキシゲナーゼ代謝活性が顕著に亢進し, これらは心筋梗塞量並びに虚血部心筋への白血球浸潤度と正相関を示し(AHA・日循総会1986発表, Cardiovasc Res1987;21:551) 2.心筋虚血作成後, 時間経過とともに末梢血多核白血球数が上昇し, 白血球凝集能並びに白血球ロイコトリエンB4産生能が有意に亢進し(Jph Circ J1987;51:465), 3.リポキシゲナーゼ阻害剤AA-861は虚血心筋における白血球浸潤を抑制し, 末梢血中白血球の機能亢進を低下させるとともに二重色素法(エバンスブルー, トリフェニールテトラゾリウム)により評価した心筋梗塞量を有意に縮小する(AHA, 日循総会1987発表, J Am Coll Cardiol1988 in press)という新しい知見を得た.
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