研究概要 |
アロプリノール(AL)は, 虚血-再灌流心筋障害を防止することが知られている. 申請者は, 昨年度の本研究実績報告において, 虚血-再灌流心筋障害のALによる防止機序としてスーパーオキサイド産生阻止作用のみならず虚血時間におけるエネルギー代謝改善作用が重要であることを示した. 本年度は, このエネルギー代謝改善作用の中でも, 特に虚血ごく早期のエネルギー代謝及びエネルギー産生系に対するALの影響を検討した. 摘出ラット心臓をランゲンドルフ法で灌流し, 嫌気的灌流液で10分間灌流を行った. ミトコンドリアの酸化還元状態を反映すると考えられているNADH蛍光を心表面蛍光測光システムを用いて測定し, ミトコンドリアのATP産生能の指標とした. AL(100μM)は灌流液に添加し, 灌流開始から終了まで連続投与した. AL投与群では非投与群に比し, 心筋組織ATPの減少は緩やかであり, 嫌気的灌流間始10分後には有意に高い値を示した(13.4±0.7 AL群, 8.4±0.6μmol/g dry weight非投与群). AL投与群, 非投与群ともに嫌気的灌流開始直後からNADH蛍光は増大し, 約2分でほぼ100%となり, 両群間に差を認めなかった. このことは, 電子伝達系の阻害, すなわち, 好気的エネルギー産生阻害については, 両群間に差が無いことを示唆する. 解糖系活性の指標として灌流液中に放出された乳酸量を測定したところ, AL投与群では嫌気的灌流時の乳酸産生亢進が非投与群に比しより著明であった. 本研究の結果から, ALには解糖系の亢進作用があり, このためにAL投与心臓では虚血ごく早期から非投与心臓と比べて, エネルギー産生がより高く維持されていることが明かとなった. これは, ALの心筋障害防止機序の一つとして, 重要な役割を演じていると考えられる.
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