研究課題
心筋収縮の基本単位は心筋細胞内のサルコメアであるから、心筋収縮のメカニズムを明らかにし種々の心疾患の終末像である心不全の原因を解明するには、心筋サルコメア動態の直接的解析が優れている。最近実験動物の単離乳頭筋では、レーザー回折法により心筋サルコメア動態を直接計測することが可能となり、心筋収縮メカニズムに新たな知見が得られているが、ヒト単離乳頭筋標本を得ることは不可能である。また実験動物における研究の結果から、心筋サルコメア動態にはかなりの種差が存在することが明らかとなっている。従ってヒト心筋サルコメア動態の解析の必要性は極めて高いが、現在までほとんど知見がない。本研究は、心臓カテーテル時あるいは心臓手術時に得られる微少な心筋切片より単離心筋細胞を調整し、レーザー回折法によりヒト心筋サルコメア動態を解析することを目的とした。顕微鏡の光学系を利用し、5mWのHe-Neレーザーを浮遊単離心筋細胞に照射し、水浸対物レンズで回折光を集め適当なレンズ系で256素子フォトダイオードアレイに結像させ、0次と1次の回折稿の間隔(D)からサルコメア長をλf/D(λ:レーザーの波長、f:定数)として求めるシステムを製作した。システムの分解能は10nm、サンプリングレートは0.5msecであった。ラットの単離右室乳頭筋標本について、レーザー回折法でサルコメア動態を解析した。一方乳頭筋摘出後のラット心臓を酵素を含む塩類溶液で灌流し単離心筋細胞を調整して、そのサルコメア動態を解析した。両者の対比検討により、心筋細胞単離の操作が心筋サルコメアの機能を障害していないことを確認した。ヒト心筋サルコメア動態の解析は、心筋収縮メカニズム・心不全の成因の解明に極めて重要な情報を与えると期待される。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)