研究概要 |
これまでの研究によってウシ心室筋から高純度形質膜標品を調製し得たので今年度は、1)この膜系のイオン輸送系の調節機構を調べるための準備としてinside-out小胞分画を膜標品から分離する試みと2)【Na^+】/【Ca^(2+)】および【Na^+】/【H^+】交換系をデタージェントによって膜から溶出し、これらを人工膜小胞にとりこみその輸送活性を再構成する試みを行った。後者の操作は、特異的なマーカーが存在しないこれら輸送系の実体の分離精製には不可欠である。1)我々の形質膜標品は、約50%がright side out,20-25%がinside out,残りが膜フラグメントであったが、種々の条件下での密度勾配遠心、レクチン等を用いたアフィニティクロマトグラフィー,イオン交換樹脂処理等を行ってもinside out小胞の割合は1.5倍程度増加したのみであった。2)【Na^+】/【Ca^(2+)】及び【Na^+】/【H^+】交換活性は、コール酸又はTriton X-100いずれを用いても形質膜から溶出され、リピッドとしてアゾレクチンを用いると人工膜小胞にこれらの輸送系の活性が再構成された。1.2%コール酸で可溶化、凍結融解したのちコール酸を除いて得た再構成膜標品の【Na^+】/【Ca^(2+)】及び【Na^+】/【H^+】交換活性は、天然膜標品のそれぞれ34倍及び6倍という高値を示した。又、膜をアゾレクチン存在下1.4%triton X-100で部分可溶化し、可溶化画分からtritonを除いて得た再構成膜標品の場合には、活性は、それぞれ9倍及び8倍に増大した。なお、いずれの再構成法を用いても蛋白質の回収率は約20%であり、コール酸を用いた場合の【Na^+】/【Ca^(2+)】交換活性の増大は、蛋白質回収率を考慮すると異常に大きいと伝える。従って再構成操作によって【Na^+】/【Ca^(2+)】交換系が大きく活性化されたか、又は、天然膜中には、この交換系の活性抑制因子があり、これが再構成操作中に失なわれたのかいずれかであろうと結論された。3)以上のほか、天然膜標品【Na^+】/【H^+】交換系の反応動力学的性質及びこれに及ぼす種々の薬剤の効果について検討を行った。
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