研究概要 |
今回我々は、先に発表したミトコンドリア脳筋症2例に加え、さらに1例を経験し、生化学的、電顕的に検索した。症例は、18才男児、10才頃よりけいれん,心筋炎,知性低下,筋萎縮,筋力低下,視野狭窄を呈し、症状増悪、改善と平行して頭部CT上低吸収域の消長を認めた。血清と髄液の乳酸、ピルビン酸は上昇、代謝性アチドーシスを示しており、前の2例と同様mito-chondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis and strokelike episodes(MELAS)と診断した。ミトコンドリアの酵素活性は、電子伝達系も含め正常であった。電顕的には、種々のミトコンドリアの異常が骨格筋のみならず直腸粘膜筋板の平滑筋細胞にも認められた。骨格筋および直腸粘膜筋板内に分布する連続性毛細血管の約70%は、内皮細胞が高度の肥厚または膨化を示しており、血管内腔がほとんどふさがれているものもあった。一方、直腸粘膜上皮細胞にはミトコンドリア異常が認められず、粘膜固有層の有窓毛細血管もほぼ正常の構造を示した。このことより、骨格筋および平滑筋のミトコンドリアの変化は、連続性毛細血管内皮の腫脹による血流障害のため、長期にわたり虚血状態におかれたために、もたらされたものと考えられた。さらに、連続性毛細血管は中枢神経系にも分布しており、本症例の中枢神経症状は、その部の連続性毛細血管の障害による可能性が考えられた。つぎに、これらの変化か本症に特異的であるか否かを確かめるため、成因が異なると考えられる他のミオパチー、Werdnig-Hoffmann病1例、ビタミンE欠乏症2例、Pywuate dehydrogenase complex(PDHC)欠損症1例についても検索をすすめた。しかし、検索したいずれの症例についても、このような高度な毛細血管内皮細胞の変化は認められなかった。培養細胞については、現在実験中である。
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