DSマウスに対するシスプラチンの毒性を検討したところ、シスプラチンの【ID_(50)】は15mg/kgであり、死亡原因はシスプラチンによる腎毒性によるものであった。この量を用いてドーパミン併用群と非併用群との間でDSマウスに対する毒性を検討したところ、ドーパミン併用群において延命効果が認められた。この効果は、ドーパミン10mg/kg投与では認められず、ドーパミン100mg/kgと300mg/kgとではほぼ同程度であった。次にシスプラチン15mg/kg投与前にドーパミン300mg/kgを投与した群と、非投与群との間で、血中シスプラチン濃度を比較すると、ドーパミン併用群の方が血中濃度は高く、尿中へのシスプラチンの排泄量は減少していた。この結果はドーパミン併用により、血中濃度の上昇、ひいては腫瘍組織内への移行量が増加することを示唆するものであり、また、腎毒性の軽減は腎を通過するシスプラチン量の減少が関係しているものと思われた。以上の動物実験の結果は、ドーパミン併用により、シスプラチンの腎毒性を軽減させ、しかも血中濃度を高める効果があることを示唆するものである。マウス白血病細胞L1210を用いて担癌マウスに対する、シスプラチンとドーパミンの併用効果を検討したが、併用による延命効果は認められなかった。このことは、L1210細胞がシスプラチンに低感受性であることが関与している可能性があり、今後検討したく思っている。 最後に、小児癌患者におけるシスプラチンの薬理動態を検討したところ、マウスにおける動態と同じく、2相性に血中濃度は減少したが、くり返しシスプラチンを投与した一部の小児癌患者においてシスプラチンの排泄遅延パターンを示すものを認めた。臨床上神経芽細胞腫患者において、初発時および再発時にはドーパミンが一般に上昇しており、これらの症例におけるシスプラチンの有効性並びに腎毒性の検討を今後行なう予定である。
|