研究概要 |
本研究はヒト剖検例のGolgi study、動物実験および組織培養の3方法を用いて行われた。ヒト剖検例のGolgi studyは新生児仮死や慢性肺疾患を合併した児の大脳皮質(既報告)にひきつづき、脳幹について行った。まず、正常発達をみると、脳幹網様体のニユーロンの樹状突起棘は胎生末期まで徐々に増加し、生後には急に減少した。乳幼児突然死症侯群ではこの樹状突起棘は残存し、その減少は遅れていた。また、Down症侯群の大脳皮質の樹状突起の発達は胎生期には正常と差がないが、生後の発達がわるい傾向があった。とくに樹状突起棘は通常、年令とともに増加するが、Down症候群では増加せず、20才をすぎると、むしろ減少した。従って、樹状突起の異常は精神遅滞などの脳機能障害と関係深いと考えられる。 動物実験ではまず、ラットの大脳皮質ニユーロン樹状突起の正常発達を計測形態学的に検討した。ラットではヒトより遅れて急速に樹状突起の分枝,伸展,棘増加がみられた。また、ニユーロン発達遅滞を作るために、動物新生仔に低酸素負荷を長時間行い、脳血流の変動を観察し、大脳皮質に病変を作りえた。これによるニユーロンの発達遅滞と促進のGolgi studyは次年度の課題である。 一方、細胞レベルで発達促進をみる目的で、正常とDown症候群乳児および成人の皮膚線維芽細胞を用いて、種々の濃度の牛胎児血清(FCS)を加え、細胞の増殖能を比較した。1%FCSでは乳児のDown症候群細胞の増殖は止り、20%では対照と差がなくなった。しかし、成人では増殖曲線は10および20%FCSでもやゝわるく、細胞密度はDown症候群で低い傾向がみられた。このように、乳児Down症候群では高栄養で増殖が補正されるが、成人では補正されず、人工血清ではじめて補正された。これは早発老化とも関係するかも知れない。
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