研究概要 |
現在までに報告されている先天性高乳酸血症をきたす酵素異常はピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体を含むTCAサイクル系の異常,ピルビン酸カルボキシラーゼおよびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを含む糖新生系の異常およびチトクロムC酸化酵素を含む電子伝達系の異常に大別される。しかし各酵素異常に特異的な臨床症状あるいは検査所見はほとんどなく、確定診断は欠損酵素の活性測定によりなされる。確定診断には通常、培養皮膚線維芽細胞や生検あるいは剖検により得られた各種臓器が用いられる。最近、培養皮膚線維芽細胞を用いる先天性高乳酸血症の系統的な酵素診断法が報告された。しかし培養皮膚線維芽細胞を用いる場合には確定診断までに長期間を要す欠点がある。そこで迅速に診断ができ、しかも患児にかける負担が少ない末梢血を用いる先天性高乳酸血症の酵素診断法について検討した。10mlの末梢血から血小板と単核球を分離し、血小板によりチトクロムC酸化酵素活性,PDH複合体活性を表わす(1-【^(14)C】)ピルビン酸脱炭酸能,TCAサイクルの機能を表わす(3-【^(14)C】)ピルビン酸脱炭酸能を測定することが可能であった。また単核球を用いてピルビン酸カルボキシラーゼとホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの活性測定も可能であった。単核球のピルビン酸カルボキシラーゼおよびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性は乳幼児で低く、血小板チトクロムC酸化酵素活性は年令により変動しなかった。血小板のピルビン酸脱炭酸能は乳幼児で高値を示した。また採血後直ちに赤血球と上清とに分離し、その上清を4℃に保存すれぱ、上述のすべての酵素活性およびピルビン酸脱炭酸能は採血後24時間まで比較的安定であり、遠隔地から検査機関への検体の輸送も可能であった。
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