近年、ヒト本態性高血圧症の発症機序の1つとして、赤血球膜ナトリウム輸送の異常が指摘されている。私どもは健常小児や高血圧素因を有する小児を対象として赤血球膜ナトリウム輸送と食塩摂取の関連や腎ナトリウム調節能について検討し、さらにWistar系ラットを用いて実験的に追試した。 健常小児において、赤血球膜ナトリウムポンプユニット数は、血圧やナトリウム摂取の影響を受けなかった。また、尿中カテコラミンやカリクレイン排泄など血圧調節に関わる内分諸因子の動態とも関連を示さなかった。 本態性高血圧症家族歴を有する小児では、家族歴のない小児と比較し、赤血球膜ナトリウムポンプユニット数および赤血球膜ナトリウム・カリウムflux比のいずれも有意の低値を示した。また、これらの因子は血圧やナトリウム摂取状況と関連を示さなかった。即ち、赤血球膜ナトリウム輸送の抑制は、正常血圧小児にも見出され、家族集積性があることが示唆された。 さらに、本態性高血圧症家族歴を有する小児に生理食塩水を点滴静注すると、ナトリウム排泄が遅延し、血漿心房性ナトリウム利尿ペプチドが過剰増加した。即ち、これらの小児は先天的に腎におけるナトリウム調節能に異常があることを示唆する所見である。 Wistarラットにおける検討でも、赤血球膜ナトリウムポンプユニット数には家族集積性が認められた。高食塩食、正常食塩食、低食塩食の三群で検討したところ、高食塩食群の血圧は有意に上昇したが、赤血球ナトリウムポンプユニット数には他群との間に有意差を認めなかった。また、尿中カテコラミンやカリクレイン排泄、血漿レニン活性、血漿心房性ナトリウム利尿ペプチドは食塩摂取状況に応じて変動し、赤血球膜ナトリウムポンプユニット数とは何ら相関を認めなかった。
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