研究概要 |
昭和61年度の研究において, 血液凝固線溶系の管理が新生児非外傷性頭蓋内出血の予後の改善に重要なことを明らかにした. そこで昭和62年度は, 産業医科大学病院新生児集中医療施設に入院したハイリスク新生児を対象として, 汎発性血管内血液凝固症(DIC)の診断・治療ならびに非外傷性頭蓋内出血の予防に関する検討を行い, 以下の成績を得た. 1.我々がすでに発表している新生児DICの診断基準を一部改訂し, FDPの測定値にD-dimerを組込むことにより簡便化した. 2.上記診断基準に従い, DICあるいはDIC疑いと診断された18例の新生児を対象として, メシル酸ガベキサートとヘパリンの投与効果を比較検討した. 投与効果は, 臓器症状の改善度(神前五郎他, 医学のあゆみ124:144,1983)と, 血液凝固学的検査所見の改善度(白幡聡他, 小児科診療43:945,1980)の両面から判定した. その結果, 血液凝固学的異常の改善には両者は同等の効果を示したが, 臓器症状の改善効果はメシル酸ガベキサートの単独投与群において良い成績が得られた. 新生児のDICに対しては積極的な補充療法とともに1.2〜2.0mg/kg/hrのメシル酸ガベキサートを投与すべきである. 3.人工換気療法施行例で在胎37週未満あるいは出産時体重2000g未満, 人工換気療法非施行例で在胎33週未満あるいは出生時体重1500g未満, のいずれかの条件を満たした48例を対象として, 出生後6時間以内に第XIII因子濃縮製剤を投与された24例(投与群)と非投与の24例の, 脳室内出血の頻度を比較検討した. 脳室内出血の頻度は, 投与群13%, 非投与群29%であった. 脳室内出血のリスクの高い症例に限って比較した結果では, 非投与群の83%に対して投与群は20%であり, 両者の間に有意差が認められた. 以上の成績から未熟児脳室内出血の予防に第XIII因子製剤の投与が有効なことが示唆された.
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