脳損傷がおきると、神経細胞が破壊され、破壊された細胞内の物質が脳脊髄液や血液中に漏出する。この漏出量を定量すれば、脳損傷の有無や程度を診断できると考え、世界に先駆けてγーエノラーゼ(NSE)をマーカーとする診断法を開発し発表した。幸いこの方法は多くの賛同を得て現在かなりの臨床的応用がなされている。このγーエノラーゼの他、Sー100蛋白とCKBがある程度の実用的なマーカーとされている。そこでこれらの有用性の比較検討を行い、さらに、新しいマーカーを探すことを目的として本研究を行った。 ラット乳仔に実験的に核黄疸をおこし、脳脊髄液や血液に漏れ出るこれら脳特異蛋白の量を高感度免疫測定法によって測定した。その結果、脳の中でも神経細胞に特異的に存在しているγーエノラーゼが最も著しい上昇を示し、神経細胞にもグリア細胞にも存在しているCKBもかなりの上昇を示したものの、グリア細胞だけに存在しているとされているSー100蛋白はまったく上昇しなかった。この結果から、神経特異性の高い蛋白はよいマーカーになりうると考えられたので、もっと神経特異性の高い蛋白を探した結果、Go蛋白が有望と考えられた。その結果、脳脊髄液、血液中のGo量は、脳損傷を起こしたラットでは健康なラットのレベルの10倍程度にまで上昇し、脳損傷のマーカーとして有用であることが分かったが、その上昇の程度はγーエノラーゼに比べると低く、有用性はγーエノラーゼに劣ると考えられた。このことから、よいマーカーを捜す際には、神経特異性だけでなく、脳脊髄液への溶け出易さも、重要なファクターとして考える必要のあることが分かった。 さらに、脳損傷の有無や程度だけでなく、損傷された神経細胞の種類までも脳脊髄液の検査で分かるようにしたいと考え、現在CaBP含有ニューロンの損傷を知る検査方法の開発を進めている。
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