研究概要 |
悪性黒色腫は転移しやすく, 悪性度の高い腫瘍として恐れられているが, 時に自然消褪を示すことがあり, 免疫学的に注目されている腫瘍でもある. 事実, 本腫瘍には近年, 多種の悪性黒色腫関連抗原が検出され, 診断や治療への応用が期待されている. これらの抗原の抗原決定基には多くの場合, 糖鎖構造の関与していることが明らかにされている. われわれは, 代表的な悪性黒色腫関連抗原であるP97抗原の, 培養悪性黒色腫細胞膜上における存在様式を免疫電顕的手法にて検索し, その抗原決定基にシアル酸が関与していることを確認した. (Saida, Tetal:Cellular, Molecular and Genetic Approaches to Jmmunodiagnosis and Immunotherapy, Ed.by Kano K.etal, Tokyo, University of Tokyo Press, 1987, P407-411). また, 数系統の培養悪性黒色腫細胞株を用い, 混合受身凝集法にてP97抗原の表現を検索し, 同一cell lineに由来するsubcloneの間で, その表現にはっきりした差異のみられることを明らかにした. (Saida, T.etal:J.Dermatol.14:201-206, 1987). このことから, おそらくin vivoにおいても悪性黒色腫関連抗原の表現が, 同一個体内の転移巣間や病巣内の腫瘍細胞間で異なることがありうることが示唆される. これは単クローン抗体を診断や治療に応用する際に注意を要する問題点であろう. さらに, われわれはN-グリコリルノイラミン酸を, 抗原決定基とする異好性抗原であるHanganutziu-Deicher抗原(H-D抗原)の悪性黒色腫細胞における表現についても検討を加え, FACSにてH-D抗原が培養悪性黒色腫細胞に表現されていることを見出し(Nakarai, H.Saida T.etal:Int.Arcas Allergy Appl.Immun.83:160-166, 1987), またTLCにて悪性黒色腫組織中のガングリオシド分画にH-D抗原が存在することを見出した(Kawachi, S, Saida, T.et al:Irt.Archs, Allergy Appl.Immun. in press). このH-D抗原は正常のヒト組織には本来存在しない抗原であるので, 今後さらに検索を進め, 臨床応用を目ざしたいと考えている.
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