研究概要 |
細胞の癌化過程にはイニシェイションとプロモーションの2つの過程が存在し、プロモーションはさらに2つの段階に分かれることが明らかになった。この各段階における変化を現象として把握することは、まだ充分に行われていない。本研究においては発癌過程における細胞骨格の変化をとらえることを目的として、ヒト表皮細胞におけるアクチンの変化について、蛍光抗体法により観察を行なった。 ヒト表皮細胞の初代培養についてアクチン細線維の分布状態を観察したところ、細胞質内に細線維が比較的れい漫性に存在し、まとまった線維束として認められるものはわづかで、細胞と細胞の接着部と細胞辺縁部の波動活性を示している部分に集合している以外に特異的な構造は認められなかった。この所見は線維芽細胞においてはアクチン細線維が細胞のストレスラインに一致して直線的な線維束を形成するのと対照的な所見であった。 強力な発癌促進因子であるTPAに対する反応においても、ヒト表皮細胞と線維芽細胞との間に大きな差異が認められた。線維芽細胞はTPAの作用をうけるとアクチン細線維束が消失する。同様の現象が腫瘍ウイルスによって細胞がトランスフォームされたときにも見られる。これに対して表皮細胞においてはアクチン細線維が束を形成する傾向を示し、さざ波状,格子状の構造が現われた。その他花冠状の形態を示す厚いアクチン細線維塊が観察された。TPAによって誘導されるこのような変化は【Ca^(++)】によって影響をうけ、低【Ca^(++)】培地で培養したときは、このような変化がほとんど認められず、ランタナムによって【Ca^(++)】のレセプターをブロックしたときも、TPAの効果は観察されなかった。基低細胞癌の細胞を培養し、アクチン細線維の分布状態をみたところ、TPA処理した正常表皮細胞と同様の所見を認めた。
|