研究概要 |
われわれがヌードマウスに継代している、ジャコウネズミの毛包脂腺系腫瘍は、アンドロゲンにより発育が促進され、アンドロゲンレセプターを有する。今回は、この腫瘍がエストロゲンレセプター様因子をも有することを明らかにした。(1)腫瘍のサイトゾール分画には、デキストラン・チャコール法により最大結合部位数22.3±4.6fmol/mg protein,【K_D】1.4±0.24×【10^(-9)】Mの、エストラジオール(【E_2】)との結合因子が認められた。(2)この結合は過大量の【E_2】,ジエチルスチルベステロールにより著明に抑制されたが、テストステロン,プロゲステロンでは抑制されなかった。(3)庶糖密度勾配法では、0.4Mkcl存在下で3.5S,kclを含まない低塩溶液では3.5Sと9Sの二つのピークを認めた。低塩溶液での3.5Sのピークが蛋白分解酵素による人工産物でないか確かめるために、子宮(ラット)のサイトゾールと腫瘍のサイトゾールとを混合してインキュベートしたが、子宮の9Sのピークは変らなかった。したがって、蛋白分解酵素の作用によるものではない。(4)invivoで【^3H】-【E_2】を投与すると、核内に放射活性の取込みが見られ、これは同時に100倍量の非標識【E_2】を投与することにより90%近く抑制された。(5)腫瘍増殖に及ぼす影響を検討した。去勢したヌードマウスに腫瘍の継代と同時に連日【E_2】を投与した。【E_2】単独投与では1,10,100μg/dayいずれも腫瘍の増殖に影響が見られなかった。テストステロンプロピオネート(TP)10μg/dayと同時に【E_2】を投与すると、100μg/dayでTPによる増殖促進効果に対する阻害が見られた。一方、腫瘍の核分画におけるダイハイドロテストステロンの濃度はTP単独群と【E_2】100μg併用群との間に差が見られなかった。したがって、【E_2】によるTP効果阻害のメカニズムは不明であるが、アンドロゲン取込みの阻害によるものではない。上記のエストロゲンレセプター様因子の生理的意義は現在のところ不明である。
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