心筋局所におけるエネルギー代謝の状態を映像化し、心疾患におけるその病態について検討することを目的として、本年度は主としてポジトロンCTによる臨床的検索を中心とした研究を行った。血流分布を示すトレーサーとしてN-13標識アンモニアを用い、ブドウ糖代謝の指標とされるF-18標識フルオロデオキシグルコース(FDG)の分布と比較して検討した。虚血心筋では、血流分布とFDGの摂取率にしばしば相違が認められた。この相違は、安静時に血流低下を示す領域でブドウ糖代謝の亢進を示唆する場合と、安静時には明らかな血流低下が見られず、運動負荷によって虚血の誘発される領域でのFDGの取り込み増加を認める場合が存在した。これは、FDGの集積増加が単なる嫌気的解糖系の亢進によるものなのか、あるいは虚血心筋におけるエネルギー代謝基質物質の利用に変化を生じていることを示すものなのかについて、今後の顆題を残すものと考えられる。 一方、脂肪酸代謝については、C-11標識の脂肪酸合成に関する基礎的検討を行った。脂肪酸のβ酸化を評価する目的のパルミチン酸と、脂肪酸の利用率を測定する目的の側鎖脂肪酸について、その標識法を確認した。更にI-123標識化合物として、側鎖脂肪酸(BMIPP)を合成し、その体内挙動に関する基礎的検討を行った。BMIPPは血中のエネルギー代謝基質物質の濃度によってはあまり影響されないが、冠動脈結索-再開通モデル(イヌ)で、Tl-201で調べた血流分布との間に明らかな分布の相違が認められた。またI-131標識BMIPPは、高血圧ラットで不均一な心筋分布を示した。これらの結果は、BMIPPおよびC-11標識側鎖脂肪酸による脂肪酸代謝イメージングの臨床応用について、その可能性を示すものと考えられた。
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