研究概要 |
内因性うつ病者では侵害刺激に対する痛み閾値が高く、また三環系抗うつ薬は鎮痛作用を有する。このような所見は内因性うつ病の成因に脳内エンドルフィンおよびその受容体の機能異常が関与していることを示唆する。本研究ではラットを用いて三環系および四環系抗うつ薬のエンドルフィン作動系への影響をin vitroおよびin vivoで検討した。1.抗うつ薬のオピオイド受容体にたいする【IC_(50)】イミプラミン,クロミプラミン,デシプラミン,トリミプラミン,アミトリプチリン,マプロチリン,シメリジの【^3H】-DAGO結合(μ受容体)に対する【IC_(50)】は【10^(-5)】Mであり、【^3H】-DADLE結合(δ受容体)【IC_(50)】は【10^(-4)】〜【10^(-5)】Mであった。2.イミプラミン急性投与実験、イミプラミン10mg/kg,20mg/kgの腹腔内投与で前頭葉皮質,大脳辺縁領域,線条体のメチオニンエンケファリン免疫活性(Met-Enh Imm.)に変化はなかった。3.抗うつ薬慢性投与実験 imipramine(IMI)0.025%,0.1%、clomipramlne(CLO)0.025%,0.1%、mianserin(MIA)0.02%0.08%を含む固型飼料を40日間ラットへ投与した。(1)痛覚閾値への影響、Hotplate testによる痛覚閾値は投与11日目にはIMI,CLO,MIAの全群で上昇した。しかし39日目には閾値の上昇はなく、むしろCLOで低下した。(2)Met-Enk Imm.辺縁領域,線条体のMet-Enk ImmはCLO,MIAの少量,大量投与で減少した。IMIも線条体Met-Enk Immを減少した。(3)オピオイド受容体、辺縁領域ではIMI,CLO,MIAの大量投与で【^3H】-DAGO,【^3H】-DADLE結合は有意に減少した。線条体の【^3H】-DAGOおよび【^3H】-DADLE結合もIMI投与で減少し、MIA少量投与でも減少した。前頭葉皮質【^3H】-DAGO結合もIMI少量投与で減少した。以上の結果は抗うつ薬長期投与が大脳辺縁領域および線条体のμ-およびδ-オピオイド作動系の機能低下をもたらすことを示している。このことはうつ病においては脳内エンドルフィン作動系が過活動状態にあることを間接的に示唆している。
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