研究概要 |
自覚的に睡眠障害を有さない一般家庭在住の健康老人18名(平均71.3歳)とアルツハイマ-型老年痴呆(senile dementia of Alzheimer type,SDAT)の老人14名(平均69.3歳)を対象に終夜睡眠ポリグラフィ-と知能検査を施行して、睡眠変数、睡眠構築、睡眠中の異常呼吸、知的機能の低下などについての評価を行った。SDAT群をさらに痴呆の程度により軽度痴呆群、高度痴呆群とし、比較検討した。在宅健康老人群内での検討では、自覚的に睡眠覚醒障害を有しなくとも、他覚的に男性のほうが女性よりも睡眠内容が悪化していることが示唆され、また、睡眠時無呼吸は、とくに男性群において、夜間の低酸素血症の累積などをもたらし、知的機能の低下と関連している可能性があると推察された。SDATの高度痴呆群で、頭蓋頂鋭波、睡眠紡錘波・K複合波の消失をみ、また、stage REM with sleep spindle, stage REM with tonic EMGの出現がみられ、non rapid eye movement睡眠、rapid eye movement睡眠とも質的変容がみられた。さらに、睡眠の量的変容では、SDAT群全体で、健康老人より有意に睡眠効率が低く、中途覚醒時間の総計、および1回あたりの中途覚醒時間が長く、睡眠内容の変化がみられた。高度痴呆群で、睡眠段階変化数、および中途覚醒回数が有意に少なく、睡眠内容の平坦化がみられ、REM睡眠の平均持続時間が有意に短縮していた。老年痴呆群全体では、健康老人より、睡眠時無呼吸が多く、軽度痴呆群で重症のものが多い傾向がみられた。以上より、SDATでは、睡眠の分断化、REM睡眠の減少など睡眠の量的変容がみられ、軽度の痴呆に睡眠時無呼吸が多く、痴呆が高度になると睡眠の質的変容が出現した。SDATの変性過程により、加齢による睡眠内容の変化がより促進された形であらわれ、その一部には睡眠時無呼吸症候群が関与している可能性があることが示唆された。
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