現在、私どもの教室で精神分裂病患者及び正常対象者の死後脳を用い、各種神経伝達物質や調節物質に関する免疫組織化学的研究を行っている。第一次抗体としてチロジン水酸化酵素、BSA・セロトニン、サブスタンスP、ソマトスタチンなどに対するモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を用い、アビチン・ビオチン・ペロキシダーゼ法にて免疫反応産物を可視化し、各種神経系の細胞体と線維を標識した。 本プロジエクトの予備的実験として、ニホンザル大脳皮質と辺縁系における上記神経系の細胞体とその線維の形態学的特徴を調べた。高密度のサブスタンスP、ソマトスタチン、ニューロテンシン含有線維の分布が前帯状皮質(第24領域、Walker)に認められた。同じ大脳領域にチロジン水酸化酵素含有線維が多数観察され、カテコールアミン作動性神経系とペプチド含有神経系との共同分布が示された。それは特に表層のIーII層で高い相互関係が認められた。 ニホンザルの場合では灌流固定が主であったが、ヒトでは浸漬固定にも重点が置かれていた。しかし、ヒト正常対象者でサルの場合と同様な結果が得られ、前帯状皮質を始めとする前頭葉皮質に多数のサブスタンスP線維が観察された。表層では顆粒状の終末様構造が主体をなし、深層では直線的に走行する線維が顕著になっていた。現在、私どもは同じ方法を用い、精神分裂病患者脳の免疫組織化学を実施している。この方法は、多くの神経科的研究で有用であることが証明されており、今後精神分裂病のような精神神経疾患の研究にとって不可欠な方法であると考えられる。
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