研究概要 |
1.アルツハイマー型老年痴呆患者の脳内に異常に増生する神経原線維変化(NFC)の発生機序を知る目的で、ライソゾーム内酵素のひとつであるcathepsin Dについて検討した。(1)NFCの構成要素の1つとしてneurofilament(nf)蛋白質が考えられているが、その構成蛋白質である200K,160K,68K,いずれもcathepsin Dによって分解された。陰性染色による電顕観察によっても再構成されたnf線維がcathepsin Dによって分解されるのが観察された。(2)各構成蛋白質の分解産物中に分子量(m.w.)50000の位置に相当する蛋白質サブユニットが含まれていた。NFCの構成蛋白質の1つがnf粗分画中のm.w.50000の蛋白質の抗体と反応することがわれわれのこれまでの成績から知られており、今回の成績から、NFCの形成にcathepsin Dなどのライソゾーム内酵素が関与している可能性が示唆された。 2.痴呆の発症と脳血流の関連性をみる目的で、砂ネズミを用いて脳虚血モデルを作製し、その脳内の蛋白質の変化を検討した。(1)両側総頚動脈をクリップで閉塞することによって脳虚血を作製し、再開通後、脳蛋白質の変化をポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により検討した。脳水溶性画分中のm.w.25500(band1),24000(band2),18000(band3)の各蛋白質が減少を示した。水不溶性画分に異常は認められなかった。(2)immunoblotting法によって、band1蛋白質はmicrotubule associated protein2(MAP2)、band2はカルスペクチン、band3はクラスリンであることが同定された。(3)MAP2は血流再開通直後より著明に減少し、変化を示した3つの蛋白質の中でも、最も脳虚血状態に影響を受けやすい蛋白質であった。(4)蛋白質減少の機序を検討する目的で、脳水溶性分画にCa【Cl_2】を添加しincubateした後PAGEで分析した結果、MAP2は【Ca^(++)】濃度に依存して減少し、leupeptinによってその減少が抑制された。このことから、虚血脳におけるMAP2の変化には【Ca^(++)】依存性蛋白質分解酵素が関与している可能性が示唆された。
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