研究概要 |
体感異常においては、それを単一症候的に示す、疾患概念としての狭義のセネストパチー(体感症)と、他の精神疾患の一症状として現れる広義のセネストパチーとが区別されている。本年度は、(1)慶應義塾大学病院精神神経科を受診した外来患者のうち狭義のセネストパチーに該当する例を抽出しその臨床的特徴を検討し、さらに(2)特に口腔領域に愁訴を有する症例群を調査、研究した。後者においては、Consultation-Liaison精神医学の観点を取り入れ、歯科、口腔外科領域でとりあげられることが多いが、明らかな器質的病変を持たない病態について精神医学的側面からの検討を加えた。 (1)昭和52年1月から昭和61年11月までの約10年間に、慶應義塾大学病院精神神経科外来を受診した初診患者のうち、セネストパチー(体感症)と診断された症例は96症例あり、男53、女43とやや男に多い。発症年齢は9歳から78歳におよび、15歳から30歳の範囲に多く分布する。異常感を訴える身体部位では頭頸部(口腔領域を含む)が多く、症状の内容に頭頸部を全く含まない症例は約5分の1に過ぎない。思春期青年期発症例には男性が多く、関係念慮を有する一群があり、中高年期例には女性が多く、心気的愁訴、抑うつ傾向を伴う者がある。他に合併症,治療,経過について検討した。 (2)(1)の96症例のうち、口腔およびその周辺部位の異常感をともなう症例は32例(男16、女16)と3分の1を占める。異常感を訴える主な部位は口腔内18例(口腔内全体10,歯4,舌2,口唇1,歯肉1)、咬合・顎関節に関するもの7例,咽頭・喉頭部5例,頬部2例である。異常感の訴え方には、A.通常の歯科口腔外科疾患においても認められることが多い訴え方(12例)と、B.奇妙な表現を用いる訴え方(20例)があり、前者については、歯科,口腔外科領域で扱われる舌痛症,味覚異常症,顎関節症の一部などとの関係についても検討した。
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