研究概要 |
体感異常の臨床精神病理学的研究として, 本年度は主に, (1)体感症(狭義のセネストパチー)の予後, (2)口腔内(特に舌)に体感異常様症状を認める舌痛症(3)自己臭症における体感異常症状などについて研究した. (1)昭和52年から昭和61年までの10年間に, 慶應義塾大学病院精神神経科外来を受診した初診患者のうち体感症と診断された97症例(男性53例, 女性44例)に対して質問紙を郵送し, さらに可能な場合は直接, 面接を施行した. 回答の得られた34症例(男19例, 女15例)の主な結果は, 「症状」では, 初診時より悪い:3例, 同程度:8例, より軽度:15例, ほとんど認めない:8例で, 「日常生活上の支障の程度」は, 重度:1例, 中等度:15例, 軽度以下:18例であった. 「現在の治療」については, 入院中:1例, 外来通院中:19例, 無:14例であった. 21例は転居などにより質問紙配達不能であった. さらに直接に面接しえた症例を加えて, 転帰と性差, 年齢, 症状内容などとの関係について検討した. (2)舌痛症では器質的病変を持たない異常感が訴えられるにもかかわらず, 精神医学領域で扱われることは少なかった. 当院歯科口腔外科の協力を得て精神病理学的に検討しえた40症例の大多数は神経症であり, さらに本症を心気症として位置づけるべきであることを考察した. その性格的側面を明らかにするためMMPI(ミネソタ多面的人格目録)を施行し, 心気症尺度, 抑うつ尺度が高値である, 難治例で精神衰弱性尺度, 精神分裂性尺度が高値を示す場合があることなどを示した. (3)当院精神神経科を受診した自己臭症90例中約7割の症例で身体の異常感が認められ, これを体感症症例の症状と比較し, 精神病理学的に検討した. 他の精神疾患の随伴症状としてあらわれる体感異常症状については, 対象症例数を増やすため昭和63年度も研究を継続する.
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