1.剖検時に得られたヒト脳の各部位から分画遠心法によりミクロゾーム分画を調整し、これと【^(125)I】で標識したIGF-【I】、【II】、インスリンとの特異的結合を見た。100μgの蛋白量当たりの特異的結合は部位により異なるが、IGF-【I】:3.8〜7.0%;IGF-【II】;1.1〜2.1%;インスリン:1.4〜2.0%であった。大脳皮質及び視床下部に高いIGF-【I】結合能が認められた。 2.大脳皮質の膜分画と【^(125)I】-IGFを結合させた後、リガンド・受容体複合物を両側架橋試薬であるdisuccinimidylで処理し、還元剤の存在・非存在下で可溶化し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にて泳動し、オートラジオグラフィーにて受容体蛋白の構造を分析した。【^(125)I】-IGF-【I】との結合において、還元時に、110K、260K、非還元時に240K、390Kの位置に放射活性のバンドが認められた。これらのバンドは大量の非標識IGFが存在すると消失したことから、IGF受容体蛋白と考えられる。【^(125)I】-IGF-【II】との結合においても同様の位置にバンドが見られた。以上の結果から(1)脳においてIGFは二つのタイプの受容体(タイプ【I】:還元時110K、非還元時390K:タイプ【II】:還元時260K、非還元時240K)に結合する(2)脳のタイプ【I】・IGF受容体のα-サブユニットの分子量(110K)は他の組織(例えば胎盤)のもの(130K)に比し小さいことが示された。 3.脳におけるIGFの作用をヒトglioblastoma由来の培養株細胞(U-251)を用いて検討した。低濃度のIGF-【I】、【II】は標識チミジンのDNAへの取り込みを促進した。U-251細胞にはインスリン受容体が存在しないため、IGFの作用はIGF受容体を介すると思われる。 4.今後、タイプI・IGF受容体に対する単クローン性抗体を用いて脳のIGF受容体の構造と機能に関して更に詳細に検討を進める予定である。
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