研究概要 |
現在, 糖尿病妊婦の新生児に生じる合併症(胎児仮死, 呼吸窮迫症候群, RDSなど)を防止するため, きわめて"strict"な血糖のコントロール(例えば食后血糖120mg/dl以下)を通してなされており, 低血糖の評加は妊娠と糖尿病の分野で重要となって来た. 我々は TCAcycleが発現するまでの器官分化初期のembryoは, 専らエネルギー産生を嫌気的解糖系路に依存しており, この様な時期の低血糖は, glycolytic fluxの減少に導き, 奇形発生に導くことを明らかにした. (Diabets 30:791,1987), しかし以上の事実は長時間, 低血糖にさらした時の結果である. 今年は, 短時間の低血糖の及ぼす影響について検討した. ラットにインスリンを注射し, 低血糖培養液(40mg/dl)を作製した. 妊娠9.5日のラットからembryoを取り出し, 第11.5日まで48時間, 正常ラット血清(glucose濃度 120mg/dl), および, それ自体では奇形の発生を認めない濃度(glucose濃度 600mg/dl)の過血糖培養液で培養した. そして培養18時間后(第10.3日)に, 一時間のみ低血糖培養液にさらした. 正常血清で培養し一時間低血糖にさらしたとしても, 8%の頻度で神経孔閉鎖不全などの奇形を認めた. さらに過血糖培養液で培養し, 一時間低血糖にさらした時は, さらに発育遅延は増強し, 神経孔閉鎖不全などの奇形の発生頻度は30%にも増加した. 以上の事実は, ごく短時間の低血糖であってもembryoがglyiplysisに依存している時期においてはembryogenesisに有害な作用を及ぼすことを示し, 糖尿病妊婦の様な血糖が高い状態における低血糖は, さらにadverse effectsを生じることが示唆された. この事実を第47回, アメリカ糖尿病学会(1987年度)で発表した. (Dialbetes 36:91A,1987)
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