研究概要 |
血栓症発現における血管内皮細胞の役割につき検討し, 以下の結果を得た. 1)人胎盤より組織因子のアポ蛋白を精製し, これに対する抗体をつくり組織因子のラジオイムノアッセイ法を開発した. 2)人培養血管内皮細胞はエンドトキシンやトロンビンの刺激により組織因子活性を発現するとともに, そのアポ蛋白の産生を促進した. この組織因子活性及びアポ蛋白の産生増加は, シクロヘキシミドの添加で抑制された. これによりエンドトキシンやトロンビン刺激による組織因子の増加は蛋白合成を併う変化であることを明らかとした. 3)心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症患者の内皮細胞機能を内皮細胞由来の蛋白であるフォンビレブラント因子活性及び抗原量, 組織プラスミノゲンアクチベータの活性及び抗原量の血中濃度を指標として測定した. これら血栓疾患者では, フォンビレブラント因子は増加し, 組織プラスミノゲンアクチベータ活性は低下していた. 4)上記血栓症患者ではフィブリノゲン代謝が元進しており, その元進の程度と, 上記3)により測定した血管内皮細胞機能の変化の程度と有意に相関した. 5)血管内皮細胞の組織因子産生にはadenylate cyclese-cyclic AMP系が関与し, 白血球のリポキシゲナーゼ代謝産物も関与することを明らかとした. 6)以上の成績より, 血管内皮細胞が何らかの原因で障害され, その機能が変化して, フォンビレブラント因子や組織プラスミノゲンアクチベータ活性の変化に加えて, 組織因子産生増加を介して, 血管内凝固を促進し, その結果凝固元進状態を惹起して血栓症発現に至ることが示唆された. この際, 内皮細胞の組織因子産生を各種薬剤により調節することにより血栓症発現を予防し得る可能性も示唆された.
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