研究概要 |
後天性免疫不全症候群(AIDS)はHuman immunodeficiency virus(HIV)により生ずるヒトレトロウイルス感染症である。わが国においてHIVに感染している可能性が最も高いグループは、血友病患者である。HIV感染の有無は、血清中の抗体の局無によりしることができる。抗体の検索法としては螢光抗体法,酵素抗体法などがスクリーニング法として用いられているが、研究者は感度と特異性にすぐれている。ウエスターンブロッティング法を用いた。まずわが国の血友病患者血清336例の血清を上記の方法で検索し半数以上の血友病患者が既にHIVに感染していることを明らかにした。一方ヒト癌レトロウイルス第1号であり、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるHuman T cell leukemia virus typeI(HTLV-I)感染細胞株は、試験管内でHIVを感染させると効率よく死滅する。故にATLの多発地域である九州地区の血友病患者と、多発地域でない東京地区の血友病患者における抗HIV抗体の拡がりを比較検討し、HTLV-I感染個体が、HIVに感染しやすいかどうかを検索した。九州地区の血友病患者のHIV感染率は64.5%,東京地区は57.6%で統計学的に差が認められなかった。またHTLV-IとHIVの両方に感染している個体においても、特に強い免疫不全症候を呈していることがなく、試験管内の現象は感染個体に反映していないことを示した。一方感染の有無は現在では抗体を検索することにとどまっているが、筆者らはHIVに対して特異的に反応するモノクロナル抗体を作製した。このモノクロナル抗体は様々な種類のHIVウイルスに反応するので、HIV感染細胞の同定が可能であり、さらにHIVウイルスの性状の研究およびHIV感染阻止薬物をスクリーニングすることにも応用できる。
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