研究概要 |
わが国の154名の血友病患者を種々の観点から検索した. 後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルス(Human Immurodeficiency Virus)(HI.V)に対する抗体を有している患者, 即ちHIVに感染している血友病患者は61%であった. 感染している患者と感染していない患者の免疫学的パラメーターを比較し種々の点を明らかにした. 第一に感染者では非感染者に較べ明らかにT41T8比の低下を認めた. 第二に抗体陽性者の血清中の免疫グロブリン量は非陽性者のそれに較べて有意に高かった. これらの事実は血友病患者に於ける抗体の存在は受動免疫では無く, HIVの持続感染である事を強く示唆していた. 第三にHTLV-1流行地域である九州地区とHTLV-1非流行地域である東京地区の血友病患者の抗HTLV-1保有率を比較すると両者に差は認められず, HTLV-1感染がHIVの感染を助長する可能性は否定された. またHTLV-1とHIVの混合感染が認められた症例の免疫能はHIV単純感染者に比較して悪化が認められず, 混合感染者は少くとも観察時点ではAIDSになり安いとの傾向は認められなかった. 更に血友病患者にこれ以上の感染が生じる事を防ぐ意味で現在使用されている加熱処理凝固因子製剤のHIV不活化処件を観察した. HIVは液状では56°C, 30分で容易に不活化されるが, 凍結乾燥状態では65°C2時間でも感染性を保ち, 不活化には長時間の加熱を要する事が示された. これらの抗HIV抗体の検索は正確を期する為に全てウエスターン法で行ったが, 本法は時間及び労力がかかる. これらの難点を解決する為に遺伝子工学的手法により得られた抗原を用いた酵素抗体法により抗体検索を行い, ウエスターン法との比較評価を行い, この方法も感度及び特異性に優れている事実を示した.
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