研究概要 |
1.骨髄間質細胞を構成する線維芽細胞, 脂肪細胞, 血管内皮細胞などが造血幹細胞の分化と増殖に対してどのような影響を与えているかについて検討した. 対象は健康人10例, 急性白血病10例, 慢性骨髄性白血病6例, 再生不良性貧血10例であり, 骨髄より線維芽細胞と脂肪細胞を, 臍帯静脈より血管内皮細胞を分離し, それぞれの培養上清をえた. 2.線維芽細胞は細胞間相互作用と液性因子によって顆粒球造血の調節を行なっていると考えられた. 急性白血病と再生不良性貧血においてはこの調節機能が障害されることにより顆粒球減少をきたし, 慢性骨髄性白血病においては線維芽細胞由来の抑制因子の機能低下が顆粒球増多に関与しているものと考えられた. また脂肪細胞は顆粒球造血に影響を与えず, 血管内皮細胞は顆粒球造血の刺激因子を分泌する重要な細胞であることが示された. 3.赤血球造血に対しては, 線維芽細胞は抑制的に作用し, 線維芽細胞が脂肪細胞に変化することによりその抑制作用が解除されるという興味ある所見がえられた. また再生不良性貧血では線維芽細胞の赤血球造血に対する抑制作用は健康人のそれよりも高度であり, 線維芽細胞が脂肪細胞化することにより, 赤血球造血に対する抑制作用は健康人の場合よりも有意に高度に解除され, 本症の貧血の発症とステロイドホルモンの有効性を裏付ける所見と考えられた. 血管内皮細胞は赤血球造血に影響を与えなかった. 4.巨核球コロニー形成細胞と混合コロニー形成細胞に対して, 線維芽細胞は抑制的に作用したが, 脂肪細胞と血管内皮細胞は影響を与えなかった. 5.線維芽細胞の培養上清中に含まれる顆粒球コロニー抑制因子は耐熱性で, 分子量が1〜5万の物質であることが示された. 6.これらの成績は骨髄において線維芽細胞を中心とする各種の間質細胞が造血を調節していることを示し, また白血病や再生不良性貧血の病態を理解するうえに有用な所見である.
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