研究概要 |
高濃度酸素運搬溶液であるperfluorodecalin(FDC)を用いて, この溶液による虚血性潰瘍治療がどの程度有効であるかを検討した. まずFDC液を効果的に行うために浴槽の設計・試作を行ない, 約4lのFDC液を入れることが可能で, かつ酸素気泡化装置, 洗絛・殺菌装置をそなえた浴槽を開発した. この浴槽を用いて, 9例を対象に臨床応用を行った. 1日2-3時間1回ないし2回, 酸素2-3l/minを流しながら患肢を浸した. 症例はTAO5例ASO4例であった. 3例はそれぞれ11, 13, 14日目に10×5, 23×6, 5×5mm大の潰瘍が完全治癒し再発していない. 4例は4-13日間の治療しか行えなかったが全例潰瘍の縮少(30-70%), 乾燥化, 疼痛の消失をみ, その後の手術療法で完治した. 2例の再発潰瘍例では1例が55日間1日1回3時間のFDC浴で乾燥化, 70%縮少し治療を中止したが6ヵ月後再発した. 残り1例は14日間3時間1日2回の治療で75%潰瘍縮少し乾燥したがその後1年間小さなビラン状変化を残している. 一方, 基礎的研究では, 37°CFOC懸濁液中に大伏在静脈を保存すると3時間後でもその内皮細胞の微細構造はよく保たれていた. また, ヘアーレスマウスの背部皮ふの角質のみを取除き, 酸素の溶解したFDCから, この皮ふを介してリン酸バッハー液への酸素移行をみると通過速度は0.0052ml/hr/cm^2と早く, 酸素含量は2時間後0.7±0.1%, 4時間後0.9±0.1%に達した. 以上の如き臨床および基礎的研究により, この治療法は組織障害部位にすみやかに作用し高濃度酸素により潰瘍治療を急速に促進する有効な方法と考えられた.
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