末梢動脈血行再建術では、術後再閉塞を極力防止する必要がある。殊に術後晩期閉塞の病態発生については不明な点が多く有効な防止対策が確立されていない。臨床における晩期閉塞は、その前駆病変として吻合部を含む再建動脈の内膜肥厚による狭窄が多く。この狭窄病変は異常血流波形(我々の【II】型波形)を示す症例に発生しやすい。 我々は、これ迄、この晩期閉塞の前病変である内膜肥厚の実験的再現を試み、犬膝窩動脈に分節的閉塞を作り(【II】型波型流れ)、その中枢側の大腿動脈に自家静脈移植を行なったところ、1)移植片内膜に臨床例と類似の著明な内膜肥厚がおこり、この内膜肥厚は平滑筋細胞の異常増殖によるものであること。2)内膜肥厚に一義的に関与する血行力学的因子は壁面剪断応力値の低下であること。3)移植片内面への血小板付着の推移を【^(51)Cr】標識自己血小板を用いて、移植後経時的に測定すると、異常血流状態では正常血流状態に比し、移植後24時間迄に血小板付着の亢進が有意に認められ、血小板の内膜肥厚に及ぼす移植直後の影響が示唆された。等の知見が得られた。然し乍ら、形態学的には移植片内皮細胞の修復が完成されたにも拘らず内膜肥厚が亢進していることの疑問が生じているため、今後はHRP(Horseradish peroxidase)などのTracerを用いた超微形態学的観察により、異常血流条件下での移植片内皮細胞の透過性の推移についての機能的観察と、内皮細胞の【PGI_2】活性の動態についての検討が必要となると考えられる。
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