研究概要 |
自家植皮を必要とする広範囲重度熱傷に適応できる創傷被覆材の開発は、きわめて重要である。即ち、熱傷の範囲および状況によっては、受傷直後に自家植皮できない場合がある。このような場合、一定期間創面を安全に被覆した後、創傷被覆材を剥離して自家植皮する。このとき、自家植皮にとって良好な移植床が形成されていることが重要である。長期間の安全被覆保護および良好な移植床の準備を可能にするには、感染防止が重要な課題である。これまでに開発されたラミネート型創傷被覆材は、外部からの細菌侵入阻止という点では効果的であるが、既に創面に存在する細菌の繁殖を抑制するという点では十分な効力を発揮できない。それ故、外部からの細菌侵入を阻止し、同時に創面における細胞の繁殖を抑制できる新しいタイプの創傷被覆材の開発が望まれている。 そこで、我々は、ポリ-L-ロイシンのベンゼン溶液にシルバーサルファダイアジンを混合し、凍結真空乾燥法により、膜構造とスポンジ構造の二層から成る創傷被覆材を作成した。生理食塩水中、37℃の条件下では、抗菌剤の徐放が可能であった。寒天培地に緑膿菌を播種し、この上に局所抗菌剤含有創傷被覆材および臨床応用されている各種被覆材をおき、殺菌効果を調べた。さらにマウス背部皮膚全層欠損傷に緑膿菌を接種し、この上に被覆材を圧迫固定して殺菌効果を調べた。いずれの場合も、本研究で開発した創傷被覆材(人工皮膚)のみ顕著な殺菌効果を示した。次に、局所抗菌剤含有創傷被覆材をラット背部皮膚全層欠損傷に縫合し、10日,20日,30日後の創面における組織反応を調べ、さらに被覆材を剥離して自家植皮することにより、創面の長期間安全被覆保護と移植床の準備が可能であることを確認した。本研究により、自家植皮までのつなぎとして必要な創傷被覆材(人工皮膚)の開発における基礎的な実験結果が得られた。
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