研究概要 |
大腸全摘に伴う糞便中の胆汁酸の変動, 及びUDCA, TCA, GCAなどの胆汁酸を経口負荷したときの血中の胆汁酸分画の変動などは, 前年度までの研究で明らかとなってきたが, 大腸全摘術後の血中の胆汁酸分画に関しては, いまだ定説がない. 今回は大腸全摘術にともなう血中の胆汁酸分画の変動をみた. (結果) 正常人に比べて, イレオストミーの時期の血中の分画では, 二次胆汁酸分画が1:0.06と著しく減少し, また非抱合型の胆汁酸も1:0.06と著減がみられた. これは, 今まで言われていた吸収障害の際の血中の分画とは相反する結果である. この原因としては, 大腸が欠除するために, 大腸内の細菌叢によって行われるはずの二次胆汁酸への変化や, 抱合などが行われないためであると考えられる. 一方イレオストミーを閉鎖して, 糞便が終末回腸を通過するようにすると, 血中の胆汁酸分画は正常人のものに近付いた. これは, 胆汁酸の腸肝循環の再開と, 終末回腸においてある程度は腸内細菌が繁殖して, 二次胆汁酸への変化や抱合型への変化を起こしているのではないかと考えられた. 各分画を合わせた総量でみると, イレオストミーの時期ではやや減少し, イレオストミー閉鎖後の状態では更に総量は減少していた. これらの所見は, 糞便の胆汁酸の変動とよく一致している. 即ち, イレオストミーの状態では一次胆汁酸が糞便中でも血中でも優位であり, また糞便中への喪失量も多い. しかし, イレオストミーを閉鎖し, 糞便が終末回腸を通過するようにすると再吸収および腸内細菌叢の作用が加わり, 正常人の状態に近付く. 今後は, 終末回腸でどの様な胆汁酸がどの程度吸収されるかという詳細な検討が必要となってくるであろう.
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