肝臓の大量切除後や肝外閉塞性黄疸をきたす胆癌管、膵癌などに対する根治手術後には制御し難い耐糖能の乱れがあり、著名な高血糖にインスリンを投与しても全く効果がないことが経験される一方、肝性昏睡との鑑別が困難な低血糖発作がみられることがある。これらは何れも肝不全の臨床的発現と考えられhormone receptorの減少によるhormone insensitivityとして把握される。 すでに前年度までにおいて基礎研究において障害肝のhormone insensitivityにはcyclic AMPが関与することが確認され、また臨床例では肝大量切除後や閉塞性黄疸症例に対する根治手術後にみられる非閉塞性黄疸の原因には肝循環障害や感染症の存在が把握された。これらの症例では肝細胞ミトコンドリアのATP生成能を反映する動脈血中ケトン体比が0.4に近づくに従い耐糖能が低下しnon ketonic hyperglycemiaにつたることが判明した。 本年度はこれらの成果に基いてさらに簡明な臨床的指標を模索した。動脈血中ケトン体比の測定は一般的でないので、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、ICG-R_<15>、プロトロンビン活性値と動脈血ケトン体比との関連を検討した。その結果血清アルブミン値3.0g/dl以上、血清ビリルビン値3.0mg/dl以下、IC G-R_<15>40%以下、プロトロンビン活性血50%以下では動脈血ケトン体比が0.4以上であることが判明し、これら指標では糖負荷後の血糖曲線は放物型であった。すなわちこれら一般的な臨床生化学的検査値でも有効な情報となり得たが、対象が複雑な病態であるため、なお多数例の集積を重ねた検討を必要とすると思われた。勿論術中の肝循環障害をさけ、画像診断による感染巣の早期診断とそのドレナージが必要不可欠である。
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