肝臓の大量切除後や肝外閉塞性黄疸症例(胆管癌、膵癌など)の根治手術後には制御し難い耐糖能の乱れがあり、著明な高血糖に対するインスリンの効果が全くないことが経験される。まだ一方では肝性昏睡と鑑別が困難な低血糖発作がみられることがある。これらは何れも肝不全の臨床的発現と考えられhormone receptorの減少によるhormone insensitivityとして把握される。この病態に対処するため障害肝動物を作成してenergy代謝動態を知ろうとした。 家兎の総胆管結紮により肝障害を作製すると肝energe chargeは低下しグルカゴン投与による著明となり、血糖値は上昇しなかったのみならずcyclic AMPの上昇は抑制された。閉塞性黄疸時にはATP生成能が低下するため細胞膜のcyclic AMPの産生が低下しグルカゴンに対する感受性が少くなるものと考察した。家兎の70%肝臓切除を施行するとenergy chargeが低下するのみならず、グルカゴン負荷によっても回復せず、血糖、cyclic AMP上昇は抑制されていた。これらの結果から障害肝のhormone insensitivityにはcyclic AMPが関与することが推定された。 臨床例で肝大量切除後にグルカゴンを投与し血糖、cyclic AMP、アミノ酸、血中総胆汁酸などを測定した結果、グルカゴンに対するアラニンの上昇が抑制されるのみでなく、cyclic AMPの上昇も同様であることが判明した。術後黄疸をきたす症例では術中の肝血流遮断、術後感染症が2大原因として把握し得た。この黄疸は何れも機械的黄疸ではなく非閉塞性黄疸であることが特徴であり多臓器障害にいたる前兆である傾向にあった。動脈血中ケトン体比が0.4以下となると耐糖能は低下しnon ketonic hyperglycemiaにいたる。この病態は肝細胞エネルギー代謝からみてATP生成能が不可逆的になったと考えられる。
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