研究概要 |
胃潰瘍の難治化と背景胃粘膜の機能を検討する上で、胃粘膜の防御因子の中でも最も重要と考えられる胃粘膜血流をとり上げた。ヒト胃潰瘍の手術症例を対照に、実際潰瘍が存在する場合の胃粘膜血流がどのような値なのか、あるいは、潰瘍が活動期と治癒期では血流に差があるのかどうかといった問題を検討した。まずコントロールともいうべき、胃に粗大病変のない健常者の胃粘膜血流はどうであるかを検討する必要がある。健常者18名の胃粘膜血流を内視鏡を用いた刺入式の電解式組織血流計にて測定してみると、実側値は25.2ml/min/100gから110.8ml/min/100gの間に分布しており、さらに胃体部の血流は70.6±24.41ml/min/100gと胃角小弯と凾門部より有意に高値を示した。一方、潰瘍患者の血流は潰瘍辺縁部で41.6±11.52ml/min/100gと有意に低値であった。 次に切除胃の組織学的検討と、術前に測定した血流量の相関をみると、萎縮が高度になると血流量が低下しており、これはシリコンラバー注入による微細血管像の検討からも、萎縮が進むと、血管の蛇行,狭小化,あるいは分布密度などが低下していることからも確められた。 またやはり防御因子としての粘液量をAB染色,PAS染色にて観察したが特に中性を表わすとされるPAS陽性粘液の増減と萎縮性変化の関連が示唆された。胃粘膜のtotal activityを表わすとされるPotential Difference(PD)はPAS陽性粘液と単相関を示すことがわかった。 以上のことから、胃潰瘍の難治化には、萎縮性胃炎をBaseとした胃粘膜血流の低下あるいは粘液量の低下といった防御因子の低下が関与していることが考えられた。
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