63年度は、ヒト慢性胃潰瘍症例および健常ボランティアにおける胃粘膜血流量を測定し、また慢性潰瘍症例のうち外科手術を行った症例では、切除胃動脈よりシリコンラバー(microfil MV-122)の注入を行ない血管鋳型標本を作成しmultiple color video image processor(VIP-21CH type)を用い微細血管像を観察しさらに胃潰瘍、胃炎との関連について検討した。 ヒト胃粘膜血流量に部位的差異が認められ、胃底腺区域でもっとも高値を示した。幽門腺区域、腺境界部では低値を示した。これはその各部位の微細血管構築によるものと考えられた。萎縮性胃炎などの胃粘膜度化が認められる部位において、その微細血管構築に改変がみられ、血流量も低下していると思われた。また特に腺境界部は、潰瘍例において、胃粘膜変化が強い部位であり、微小循環の面からも、粘膜抵抗減弱部位であろうと考えられた。潰瘍部において、その血流量は、他のどの部位よりも低く、また潰瘍のstage別にみると、治癒期で高い値いを示した。難治性の潰瘍例では、潰瘍辺縁及び潰瘍底での新生血管の量は少なく、血流は低い値いを示した。胃潰瘍の治癒にとって血流がいいことが重要であり、それは新生血管に左右されるもとと考えられた。 この胃潰瘍症例の微小循環の変化等を考えると、胃潰瘍の外科的適応は、胃潰瘍周囲の循環障害の強い症例ということになるが、ヒトの胃粘膜血流測定は非常にやっかいなことであり、今後、それにかわる方法を検討していきたい。
|