研究概要 |
本年度は, 不全心回復における残余正常心筋の役割を解明するために補助人工心臓適用時の心筋廃用性萎縮の進行に関する組織形態計測学的検討を行なった. 成山羊4頭に対し補助人工心臓を左房・下行大動脈間に装着し, 2頭は最大補助率(心拍出量の約80%)で30日間, 他は60%程度の補助率で30及び90日間駆動し, 左室を減負荷した. 予定終了後心拍動下に左室自由壁から生検を行なった. 生検は, 最大補助の2頭は, ホルマリン(H)及びグルタールアルデヒド(G)固定用に3カ所, 60%補助の2頭は, G固定のみ3カ所から行なった. また対照として, 成山羊4頭を検討した. (1)単位心筋組織中の心筋細胞及び間質の体積密度(光学顕微鏡400倍):ポイントカウント法で求めた. (2)心筋細胞横断面積(光学顕微鏡1000倍):ホルマリン固定を行なった対照の4頭と最大補助の2頭を対象とした. (3)単位心筋細胞形質中の筋原線維及びミトコンドリアの体積密度(電子顕微鏡8000倍)・ポイントカウント法により求め, 各標本10視野ずつ30視野を平均とした. 単位心筋組織中の心筋細胞の体積密度は, 対照, 30日間80%補助, 30日間60%補助, 90日間60%補助の順に64.1, 65.2, 63.6, 64.7%であり, 差は認めなかった. 間質にも差はなかった. 心筋細胞横断面積は, 対照, 30日間80%補助の順に, 451.0μm^2, 327.4μm^2であり, 対照の約73%であった. これは, 横断径に換算すると約85%である. 単位心筋細胞形質中の筋原線維の体積密度は, 順に, 56.5, 49.7, 53.5, 48.0%であり, 30日間80%補助と90日間60%補助で減少を認めた. ミトコンドリアの体積密度は, 23.6, 24.2, 23.2, 18.2%であり, 90日間60%補助のみで減少を認めた. 補助人工心臓は, その補助量と期間によっては心筋廃用性萎縮を惹起する事が確認された. 心筋廃用性萎縮は, 心筋細胞及び間質に同時に起こり, 心筋細胞内での変化では, ミトコンドリアの体積密度の減少が筋原線維の減少に遅れる事が認められた.
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