手術時に得られたグリオーマを含む脳腫瘍組織29例からDNAを抽出した。脳腫瘍組織の内訳は良性腫瘍13例(星状膠細胞腫4例、乏突起膠細胞腫3例、髄膜腫3例、神経鞘腫2例、下垂体腺腫1例)、悪性腫瘍11例(膠芽腫5例、悪性星状膠細胞腫4例、髄膜腫2例、悪性乏突起膠細胞腫1例)、転移性腫瘍5例である。抽出したDNA量は、良性腫瘍1.38±1.26μg/mg湿重両(mean±SD、n=13)、悪性腫瘍1.84±1.39μg/mg(n=11)、転移性腫瘍2.79±2.14μg/mg(n=5)、正常脳組織0.40±0.14μg/mg(n=4)であり、腫瘍の種類による差はなかった。DNA量は細胞数および核容積否と正の相関があった(それぞれ、γ=0.57、γ=0.51、P<0.01)。制限酵素EcoRIの切断で分離されたα-DNAの全DNAに対する割合は、良性脳腫瘍で1.90±0.80%、悪性腫瘍で2.40±0.98%、転移腫瘍2.17±0.72%、正常脳組織1.86±0.49%であり、悪性腫瘍で軽度上昇していたが、有意な差はなかった。悪性グルオーマ5例において、E.coli DNA polymerase I(Klenow fragment)を用いてα-^<32>P-dATPをαDNAに末端標識し、EcoRI^*で再切断し、92bpおよび250bpの標識断片を分離した。piperidineおよびM.luteus抽出液とDNA断片を反応させ、8%polyacrylamide-50%ureagelで泳動してオートラジオグラフィで損傷部位を検討した。脳腫瘍細胞のα-DNAの塩基配列は相同性を保ち、特異的なDNA鎖切断は検出されず、piperdineによるAp/Au部位、M.luteus抽出液の硫安分画による修飾・損傷DNA部位も明確でなかった。したがって、脳腫瘍組織ではこれらの種類のDNA損傷は極めて少ないか、あるいはDNA回復酵素による修復がおきているものと推定される。
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