本研究は脳の乏血性疾患を治療すべく、脳腫瘍、脳動静脈奇形、炎症性物質などヒト生体組織から血管の新生を促す物質 (因子) を分離し、それを臨床応用しようとするものであり、その一歩として活性をもつ因子を分離することを目的とした。手術的に摘出採取した脳腫瘍組織ホモジネートから45KD近くに異常スポットを発見したが、その性質を同定するには至らなかった。そこで次に被検体の量を増すべく腫瘍細胞の培養を行いその上清を採取し、凍結保存することにより比較的大量の検体を確保すると同時に、なるべく自然の環境に近づけるため他の病気より切除されたヒト大脳の血管から細切、ホモジネート、ユラーゲナーゼ処置により毛細血管内皮細胞の分離、培養を行った。後にこの継代細胞群は細菌感染を起したため、次に述べる別の細胞株を利用し、最終的な実験を行った。すなわち、第1に患者より摘出した髄膜腫約10gを細切し、ホモジナイズした後、超音波細胞破壊装置にて細胞を壊し摂氏4度において10万G、1時間超遠心した後、その上清を採取した。 これをファルマシア社製高速液体クロマトグラフィーを用いて分離精製を試みた。カラムはヘパリン親和性カラムおよびイオン交換Mono-sカラムを使用した。この過程で単一ピークを示した分画の活性を、ウシ肺動脈内皮細胞の増殖能で検討した。実験群は、RPMI1640単独群、RPMI1640+10%ウシ胎児血清群、RPMI1640+上清群とした。第2に、ヒトグリオーマ細胞株A-172を大量培養し約2lの培養上清を得た。0.45μmのミリポアフィルターで濾過後同様に分離精製し、単一ピークを得た。この分画の活性を同様に検討した。 その結果、ヒトグリオーマ培養上清は細胞増殖活性を有することが判明した。両者ともに電気泳動では多峰性のパターンを有していた。
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