研究概要 |
本年度は髄液循環吸収障害における脳のエネルギー代謝について実験的研究を行った. 方法:実験動物は犬6頭を用いた. 正常コントロール1頭, 水頭症作製犬5頭であった. 水頭症はネンブタール麻酔下に経皮的大槽穿刺で等量の髄液吸引后に50%カオリン懸湯液平均0.13ml/kgを注入して作製した. カオリン大槽内注入後11日以内を急性期水頭症, 14日以後50日までを慢性期水頭症とした. 前者2頭, 後者3頭を用いて本実験を行った. 水頭症の確認ならびに形態学的変化とそれに引き続きPhosphorus 31 spectraを2 Tesla超電導型Asahi Super 200を用いて検討した. 結果:急性期水頭症と慢性期水頭症との間には脳室拡大の程度は後者でやや高度の傾向があり穿刺時の脳室内圧は後者の方が低い傾向が見られた. いずれの時期にも脳室周囲の白質に髄液移行を呈す髄液浮腫が見られた. Phosphorus 31 spectraは他の動物と同様にα-, β-, γ-ATP, Creatine phosphate(CrP), inorganic phosphorus(Pi), phosphodiester(PDE), phosphomonoester(PME)の7ピークからなる典型的な信号を得た. 一頭においてネンブタール過剰投与による呼吸停止後20分〜30分にとったSpectraではATPには変化なくPiが著明に上昇, Crpが著明に下降した. これを異常例として参考にした. 急性水頭症, 慢性水頭症とも中等度脳室拡大を呈したが, 脳実質がうすくなる程度の高度水頭症ではなかった. 急性水頭症では頭蓋内圧は13-20cmH2O, 慢性水頭症では5cmH2Oであった. Spectraの変化はCrP/Piで検討すると急性水頭症では最も低く慢性水頭症例ではコントロールに近づくがそれより有意に低値を示した. また急性水頭症と慢性水頭症2間でも有意に前者が低値を示した. 髄液排除前後は変化はなかった. 以上より水頭症に於ては脳のエネルギー代謝障害がみられ急性期ほど強く慢性期には回復する傾向がみられた. 髄液排除直後にはエネルギー代謝の障害の改善はみられなかった.
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