脳脊髄液循環障害における頭蓋内圧、脳血流状態及び脳エネルギー代謝の変化を実験的・臨床的に研究した。実験的研究:実験動物はウサギ44羽、犬10匹を用いてカオリン大槽内注入により髄液循環吸収障害を惹起して内水頭症を作製した。頭蓋内圧は大槽注入2週頃には頭蓋内圧は低下し、脳の全水分量は3週まで増加を示さなかった。しかし自由水分量は数日後から増加を示した。そして最も増加の顕著な急性期から亜急性期にかけて(数日〜2週)脳室周囲白質にT_1、T_2の増加が最も著明な時期には相対的に脳のクレアチン酸の減りと遂に無機燐の上昇をきたし、高エネルギー燐酸の代謝障害をきたすことが判明した。しかし大槽注入後50日目の慢性期には、内水頭症に由るエネルギー代謝障害は正常近く復帰した。臨床的研究:内水頭症に伴う臨床症候の発現機序を解明するために主として正常圧水頭症患者の持続頭蓋内圧、Xe-CT脳血流検査、Gシステルノクラフィーなどを利用して検討した。髄液循環吸収障害の重症度別分類と臨床症状とは無関係ではなく、またシャント手術効果とも関係があり、このCTシステルノグラフィーによる髄液循環吸収障害の分類法は有用であった。持続頭蓋内圧測定におけるβ波の出現頻度はCTシステルノグラフィーの重症度分類の重症度の高いものほど高頻度に出現し、またβ波出現頻度の高いものほどシャント手術効果も良好であった。Xe-CT脳血流検査ではCTシステルノグラフィーの重症度別分類の重症度の高度のものは、大脳皮質、脳室周囲白質の血流低下もみられ、シャント手術後1〜2カ月後には両部位とも脳血流の改善がみられた。今後、臨床例において髄液循環吸収障害の程度と脳の局所エネルギー代謝障害との相関についてMRスペクトロスコピーとMR画像との併用により検討し、髄液循環吸収障害における脳実質細胞のエネルギー代謝について検討する予定である。
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