研究概要 |
砂ネズミ、ラットに一過性全脳虚血を加えると海馬に神経細胞の脱落が発生する。この現象に着目し、主に砂ネズミを用いて実験を行なった。上記の虚血性海馬病変は可逆性のものである。動物に虚血を負荷し、その直後に薬剤を投与すると海馬の神経細胞の崩壊が著明に防止し得る。有効な薬剤は、ペントバルビタール,ジアゼパム,ニゾフェノンであった。この中で、特にペントバルビタールを用い、投与を遅れさせた場合の薬剤効果を調べた。薬剤を、動物の虚血を解除した直後に投与すると薬効が認められたが、投与を15分以上遅延させると全く効果を失なった。従って、何らかのメカニズムが虚血直後に作用を開始し、急速にニューロンに不可逆的損傷を与えるものと考えられた。現時点では、このような機構の主役を演じるのはグルタミン酸ではないかと考えられている。しかし上記の3つの薬剤がいずれもGABAレセプターと密接に関連していることを考慮すると、GABAの関与している可態性を否定し去ることはできない。そこで、現在半定量的方法ではあるがGABAの免疫染色をこの実験系に用いている所である。 このような治療可能なタイプの神経細胞障害は、海馬以外の部位に存在するのであろうか。たとえばラット中大脳動脈閉塞モデルにおいてはこのようなタイプの神経細胞障害を見出すことは困難で、虚血部位は脳梗塞となってしまう。この点を更に明確にするために、一過性のラット中大脳動脈閉塞モデルを作成し、時間を追って観察を行なっている。 海馬の他に同様な虚血に対する選択的脆弱性を示す部位としては小脳皮質がよく知られている。しかし小脳虚血を負荷するためには必然的に脳幹虚血が加わるため、これまでこの点に関する報告は皆無に近い、我々はこの点を明確にするため、人工呼吸下にラットに頭蓋内圧上昇による全脳虚血を負荷し、標本を検討中である。
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