研究概要 |
社会生活の営みにおいて種々の手段によるコミュニケーション機能は非常に重要なものである. 脳性麻痺症例を中心とする重度身体障害者は運動器の機能障害に合併して構音障害を有し, 他の日常生活動作障害と重複して社会生活上重大なハンディキャップをこうむっている. 近年, 障害者の能力開発面から従来主として運動機能面に向けられていた取り組みを, さらに知的・精神的能力の開発に向ける努力の必要性が主張されるようになってきた. 施設入所症例を対象にわれわれが調査した重度障害者の実態においても, 約半数の症例に日常生活中のコミュニケーション機能障害を認めた. 各種のコミュニケーション手段が考えられるなかで, 症例によっては機器の利用を必要とし, その利用により症例のニードを満たし飛躍的にQOLを高めることがわかった. これまで上記障害に対して, マイクロコンピューターを駆使した音声編集器ならびに書字介助器の開発を行い, 症例の残存機能を活用させて言語および書字によるコミュニケーション機能が向上するよう研究を進めてきた. 書字介助機器については症例の上肢・下肢・下顎などの粗大動作で入力し一般に普及しているワードプロセッサーが使用できるようにインターフェースおよびそのソフトを開発した. 症例の残存能力に直接つながる入力方式は2個のスイッチを入力するスキャンニング方式と, 8個または12個のスイッチよりの2連の組み合わせ信号を入力する2方式を中心に臨床応用を進めて来ている. 今年度は極重度症例用のスキャンニング方式につき単純な動作で能率的に文章を編集するように, 一般のキー操作に相当するカーソルでの走査を4方向に行えるようなプログラムを開発した. コミュニケーションに関するハンディキャップを軽減する福祉機器は障害者のリハビリテーションの新しい手段となり得ることがわかった.
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